自転車徘徊紀行(第31話)危険生物との遭遇

自転車でのんびり山中を走っていると、野生動物と出会うことは珍しくない。

栃木県に住んでいたころ、高原山周辺や八方ヶ原に時々出かけたが、集落の近くでも普通に鹿を見かけたし、時には十頭以上と思われる集団が広い草地に群れていたりした。
シカが襲ってくることはほとんどなかろうが、サルは注意が必要かもしれない。
ほとんど車や人気のない道を上っているとき、道から20メートルほど離れた倒木の上に一頭のサルが居たが、こちらに気づくと奇声を発しながらこちらに近づいてきた。
まずいと思いながらも、急にスピードを上げて逃げるのも危ない気がしたので、興味がないふりをして坂を登ったが、冷や汗ものであった。

そのあたりでは、熊も時々出没し、注意喚起の看板が所々に設置されている。
どうせ、ツキノワグマはおとなしいんだろうと思っていたが、最近、襲われて大けがをしたり、死亡したというニュースもあったりで、今更ながら認識が間違っていたと思った次第だ。
幸いにクマと出会ったことはない。

広島に住んでいたころは家の周りに毎日のようにイノシシが来て、空き地の土を掘り返したり、近所の家庭菜園の野菜を食い荒らしたりしていた。
夜間に来るのだろうが、家で飼っていた犬も近所の犬も吠えるのを聞いたことが無い。
10メートルも無い距離にイノシシが来ているはずなのに、どうして吠えないのか不思議だ。
ある日の薄暗くなりかけた夕刻に近所を散歩していると、突然、4,5頭くらいのイノシシがすごい勢いで目の前を横切って行った。
タイミングが悪いと襲われたかもしれないと後でぞっとした。

現在、熊本県の氷川町に住んでいるが、梨園が広がる山手を頻繁にポタリングする毎日だ。
ここでもよく野生動物と遭遇する。
先日、緩い坂を登っていると、太った猫よりも少し大きいくらいの動物が道端で何かを食べていた。
後ろから近付いても気づかない様子で、食べるのに夢中のようだ。
2メートルも無い距離になって、私に気づくと驚いて飛び上がった。そして何とも言えない威嚇の唸り声をあげて、向かって来ようとしたが、すぐに何事も無かったかのように再び何かを食べ始めた。
これは、タヌキ、ハクビシン、アライグマ、二ホンアナグマのどれかだろう。
ネットで調べると、二ホンアナグマの可能性が高いと思う。
性格はおとなしいそうだが、威嚇の唸り声は怖かった。
ちなみに、アライグマは性格が荒いとのことで、十分気を付けた方がよさそうだ。

別の日だが、田舎とはいえ住宅街を、あたかもネコのようにタヌキが歩いていた。
私が自転車で近付くと、やっと気づいて慌てて民家の庭に駆け込んでいった。
まさに昨日だが、梨園を通る道路の側溝の上でイタチが寝そべっていた。
こちらに気付くと側溝の長い六角形の穴に入り込み、頭だけ出してこっちを見ていた。
とてもかわいい印象だが、イタチは結構気が荒く、強烈な匂いも発するらしい。
あまり近づかない方がよさそうだ。

二カ月くらい前だが、自転車で出かけようとスニーカーを履いたとたん、指先に強烈な痛みが走った。
最初、スズメバチでも踏んだかと思ったが、靴を逆さに叩いて出てきたものにビックリした。
身の毛もよだつ巨大なムカデだった。
ムカデは何度も見たが、こんなに長くて太いやつがいるのかと、とても驚いた。
写真を撮る余裕も無く、殺虫剤をかけて、嫁さんに埋めてもらった。
尋常ではない痛みと腫れが2,3日続いた。
これ以降、靴を履くときは逆さにしてトントンと地面を叩くことにしている。
二回目にかまれると、アナフィラキシーショックで重症化する人もいるらしいので気を付けなければならないと思っている。