自転車徘徊紀行(第27話)石鎚山

四国の「石鎚山」(1982m)は西日本の最高峰だ。

そのまさに懐と言える面河渓から7合目付近の土小屋までいたる石鎚スカイライン、さらに、よさこい峠を経てシラサ峠、瓶ヶ森、西黒森、東黒森、伊予富士、鷹ノ巣山、そして寒風山トンネルへと至る瓶ヶ森林道(現在は町道瓶ケ森線とかUFOラインというらしい)は西日本屈指の大山岳コースといえるかもしれない。

なにせ土小屋~寒風山に至る区間はほとんどが標高1400~1700mの尾根上の道であり、距離にして15キロ以上はありそう。
その区間、巨木が茂るところがあれば、一面の熊笹に覆われたところもあり、遠く瀬戸内海や重厚な四国の山々を見渡す大パノラマルートなのだ。

三十年以上前のこと、私は幾度かこのコースを走ったが、その頃は土小屋~寒風山トンネルまでの区間は完全な地道、しかも、瓶ヶ森以降はごついゲートがあり一般車両は通行止だった。
そして、路面にはあちこちに尖ったこぶし大の岩がころがり、寒い季節には湧水が巨大なつららやアイスバーンを作る素掘りのトンネルが何か所もあった。
ここをチューブラーで走行したこともあったが、思えばなかなか無謀なことをしたものだ。

このコースの最大の見所は瓶ヶ森の山頂付近の景観であろうか。
あたり一帯は熊笹の絨毯に覆われ、白骨化した木々が立ち並び、自然の厳しさを物語っている。
ここから眺める石鎚山の姿は修行の山にふさわしい気高く荒々しい姿だ。
瓶ヶ森の頂上直下は氷見二千石原といわれる平原になっており、山小屋やキャンプ場がある。
ここで一泊すれば石鎚山の彼方に沈む美しい夕日を拝むことが出来る。
現在でもこの美しい景観は保たれているのだろうか?

私はこのワイルドなコースを気に入って、何度も訪れたのだが、そのたびに、何かしら事故や危険に遭遇している。

その1: このコースからの帰り、松山市内の国道で、突然現れた道の端の段差にぶつかり、自転車ごと前転、顔面から地面にたたきつけられた。
鼻の頭や額に大きな擦り傷。
さらに、一時間後くらいに車とぶつかりそうになり、思わず怒鳴ってしまう。
翌日発熱して会社を休む。
気のせいかもしれないが、この件以来、記憶力が悪くなったようだ。

その2: 明かりの無い真っ暗な寒風山トンネルの真中で平衡感覚が完全におかしくなり、自転車から降りて、しばらくしゃがみこむ。
脂汗をかきながら、ふらふらと乗車したり押して歩いたりしながら何とか脱出。

その3: 連れのK君が寒風山トンネルからの下りで、対抗車と正面衝突しそうになり、まさに間一髪、車に向かって右側へよける。

その4: 同じく、K君と石鎚山を目指し、港を目指し、広島県内の国道を走っていると工事中の砂利道に出くわし、K君が、深さ30センチくらいの穴に前輪を落とし自転車ごと前転、顔面を砂利の地面に打ちつける。
顔面流血の大惨事、救急車を呼ぶ事態に。
もちろん旅は中止。
今でも傷跡がくっきりと残る。

その5: 石鎚スカイラインの登りの途中、わずかな距離だが、ヘアピンの急勾配の下りの個所がある。油断していたせいかうまく曲がれず、センターラインを大きくオーバー。対向車がいなかったのが幸い。
今思い出してもぞっとする瞬間だった。

その6: K君と私は、速く走ることしか考えていないレーサーY氏をさそって瓶ヶ森林道を走る。
Y氏はアルミのフレームが悪路で曲がったらどうしてくれるのだと激怒した。
あまりの剣幕に殴られるのを覚悟した。

霊峰石鎚の山の神が下した不浄な輩への天罰か?
いや待て、これだけ危険に出会っても死は免れたので、幸運だったのかもしれないと前向きに考えよう。
しかし、次に行くのはやっぱり怖いなあと思いつつも、「行きたくても、お前にはもはや行くだけの体力も気力もないだろう」と山の神が鼻で笑っている気がしたのでした。