自転車徘徊紀行 第1話 身近な旅から

2022年8月8日

私の住む町は、酒都として有名な広島県の西条という所である。私の家から30~40分も走れば頂上に立てる龍王山という標高575メートルの山がある。この夏、遠出が出来なかった私は、毎週の様にこの山に登った。たいした特徴も無い山を大汗をかきつつ登る姿は、他人が見たらきっと物好きな奴と思うに違いない。
しかしながら、自動車は麓で通行止めであるし、非常に快適に安全に走れる。ほとんど舗装の林道は尾根上を通り、明るく見晴らしが良い。
頂上からは、何本もの酒蔵の煙突が最近急にひらけはじめた市街地の中に見えている。
また、はるか彼方に、瀬戸内海がきらめいていたり、四国の石鎚連山がはっきりと見えることがある。
身近な所ながら、旅情を感じることができる場所である。
頂上に程近い所に、私が毎回自転車を止める木がある。木の種類には疎いがどんぐりの1種である。
道からわずかの所にあるその木には、クワガタが集まってくるのである。
クワガタはコクワガタ、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタなど一般的なものばかりであるが、狙いはヒラタクワガタの大型のもの。
昨年は結構大きなものを捕獲したが、今年、本格的な夏の到来を待たずに死んでしまった。
今年はなぜか、ヒラタクワガタが一匹も見つからない。
そこで、毎回、木を蹴ったり、周りの草むらをガサガサやったりするわけだが、他人の目には怪しく映るだろう。
家には幾つかのケースがあって、クワガタやカブトムシを飼っている。長男が虫好きということにしているが実は自分が好きなのである。
時々オオクワガタを捕獲する夢をみる。しかし、広島県内では20年位は捕獲記録が無いらしい。
自転車の変速機はこれら甲虫のイメージと共通する。
時々、わずかながら収集した変速機を手にとっては磨いている。
特に、ユーレーのジュビリーのRメカは非常に気に入っており、こんなに美しいデザインは、日本人の感覚では
できないのでは、などと考えたりしている。
150グラムにも満たないこじんまりとした姿は、正にセクシーな芸術品。
オオクワガタが手に入ったら、もしかしてジュビリーと同じ手つきで扱うのだろうか。
紀行ならぬ奇行の話である。

※昭和から平成のはじめころ、勤務時間に上司の目を盗み、fjニュースグループに投稿した記事を一部追加修正したものです。