自転車徘徊紀行 第23話 記憶喪失になる

昔から記憶は良い方だと思っていたが、60過ぎると相当怪しくなる。
先日、パソコンを立ち上げるとき、毎日入力しているはずなのにパスワードがどうしても思い出せないことがあった。
入力の習慣化に伴い、指の動きのパターンとしての記憶となり、文字としての記憶の方が薄れていくのだろうか?

しかし、思い返せば、歳のせいだけでもなさそうだ。
同様の事が10年くらい前にもあった。
会社の個人割り当てのパソコンだったが、朝、出社して、パスワードを思い出せず、ああじゃないこうじゃないと入力しているうちにロックがかかり、解除の申請をするなどゴタゴタしているうちに半日をロスしてしまった。
結局、良いと思っていた記憶力が非常に怪しいことを身に染みて感じたのだ。

この様な突然の記憶喪失がツーリングしている時に発生するととても困る。
ツーリングの記憶を辿っていくと、いくつか記憶喪失に陥った時の事がよみがえる。

30歳の頃だったと思う。
友人と二人で旅しているとき、駅に自転車をとめて近くの食堂で昼飯を食った。
さて、出発しようかと駅に戻り、自転車のダイヤル式のチェーン錠を解除しようとすると、どうしても4桁の番号が思い出せない。
数か月は使用していたチェーン錠なので、番号を忘れることなど無いと信じていた。
実にショックだった。
結局、自分たちではどうしようもなくて、駅員をつかまえて、事情を話すと、巨大なワイヤーカッター?のようなものを持ってきて、切ってくれた。
少しも疑わず、快く対応してくれた駅員に心から感謝である。
しかし、どこの駅だったのか、どこの県だったかさえも忘却の彼方であり、自分の記憶力が良いなど、よく言えたものだ。

これも30歳の頃だったと思うが、紀伊半島の山岳地帯を西から東に横断したとき、疲れ切った状態で、尾鷲付近の山中の民宿にたどり着いた。
少し、早めに到着し、晩飯まで時間があるので、ちょっと横になったら、疲れからすぐに眠ってしまった。
目覚めた時、未だ明るかったので、おそらく眠ったのは、ほんの10分くらいではなかろうか。
ここはどこで、なぜここにいるのか、全く分からなくなった。
こうなると、半分パニックだ。
「落ち着け!、落ち着け!」と自分に言い聞かせながら、ゆっくりと部屋の中や、廊下をぐるりと歩いてみた。
そうするうちに、徐々に記憶がはっきりして、自転車で旅をしている途中で、何とかという民宿に泊まっているのだと思い出した。
思い出せなかった時間はほんの2,3分だと思うが、これがずっと続いたらと考えるとぞッとした。

これらのことは、学生の頃、自転車で帰宅中、渋滞の車の間から、右折してきた車と接触し、電柱に激突、側頭部をぶつけた時の後遺症の可能性も無きにしも非ずだ。
やっぱり、ヘルメットは着用すべきなのだろうな。