自転車徘徊紀行 第2話 阿蘇(日ノ尾峠)
熊本は、剛気朴訥な土地柄と言われる。
熊本市内の藤崎宮の秋の大祭は勇壮なラッパのリズム(サンバのリズムに似ている)にのって馬を追い掛け回す、見方によっては野蛮な祭りである。
この祭りが近づくと、町のあちこちでラッパの練習の音がしてうるさいが、このリズムが聞こえると秋が来たような気になるのである。
ところで、熊本の名産の一つに馬刺し(馬肉の刺し身)があるが、あくまで噂であり、真偽のほどは不明であるが、祭りで使った馬は馬刺しにされると聞いたことがある。
馬刺し専門店にいくと馬の握りや串焼き等もあって、馬の顔を思い浮かべなければ、まぐろのとろと似た感じで非常に美味である。今回は馬にまつわる話である。
阿蘇の草原と言えば草千里が有名であるが、休日ともなれば観光客でごったがえす。
このような所はあまり行く元気が出ない。
それに、阿蘇には美しい草原がいくらでもある。
高岳と根子岳の鞍部(まさに馬の鞍の形)は日ノ尾峠とよばれ、この峠を通って、九州自然歩道が高森と宮地を結んでいるが、この道も草原の道である。
車でも何とか通れそうな道だが、雨水に侵食された深い溝が刻まれ、自転車ではひどく走りにくい。
峠からの見晴らしはほとんどきかないが、高森側の鍋の平、宮地側の小堀牧といった美しい草原(牛の糞はいっぱいだが)にたてば、高岳と根子岳の姿が圧倒的な存在感で迫ってくる。
特に紅葉の頃、鍋の平から見る根子岳や厳冬の頃の雪を頂いた高岳(厳しい父親の姿を連想させる)がすばらしい。
さすが、阿蘇五岳の真ん中を横断する道だけのことはある。車はもとよりバイク、ハイカーもそれほど多くない、実に静かな道である。また、牛が放牧されており、珍しそうに近寄ってくることもある。
あるとき、宮地方面へ下っているとき、曲がり角の向こうから、かっぱかっぱと音がする。
まさかと思っていると、いきなり、凄い勢いで馬が飛び出してきた。
3頭だったと思うが、カウボーイスタイルの男達がまたがっている。奇声を発しながら走り去る彼らをただ唖然と見送った。
たまたま、近くを2人の女性ハイカーが通りかかっていたが、彼女らも驚いて立ち止まり、怪我をしたらどうするのだと怒り心頭の様子だった。
実はこの道は、牛馬優先道路。しかし、遊びで走っているらしき奴等に、恐い思いをさせられるのは許せないものがある。自転車(特にMTB)も現代の馬にたとえられるが、最近問題になっているハイカーとの摩擦もこの話と良く似た事なのだろう。
※昭和から平成のはじめころ、勤務時間に上司の目を盗み、fjニュースグループに投稿した記事を一部追加修正したものです。
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