竜峰山逍遥(1)

竜峰山の山頂に登ったのは、1回しかない。
だが、自転車で麓を徘徊したり、五合目の広場まで走ったりすることは時々ある。
先週、気持ちの良い天気の日があったので、五合目の広場まで走った。

途中の坂は急であり、鬱蒼とした樹々(夏は日陰になって良いのだが・・・)で、個人的には、あまりすがすがしい感じはしない。
私はお世辞にも、読書家とは言えない。
夏目漱石など、途中で眠くなって完読したことがない。
しかし、車も人もほとんど通らない山道でペダルをこぐとき、必ず頭に浮かぶ漱石の小説「草枕」の一節がある。

「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
 知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
 とかくに人の世は住みにくい。」

なぜ、頭に浮かぶのか?
あまり立派な理由ではない。
学生の頃、信州をツーリングしたとき、道連れになった人と、信州大学の学生寮に泊まってみようということになって、一泊させてもらったことがある。
壁に沢山の落書きのある、相当ぼろい部屋だったが、自治会の人が貸布団を用意してくれて、気持ちよく過ごせた。
確か、当時の宿泊代は、貸布団代+α? 程度の数百円だったような気がする。
そのとき、落書きの中に上の漱石の一節を引用、アレンジしたものがあって、それが面白かったので記憶に残っているのだ。

「 知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
 とかくに人の世は住みにくい。
 酒を飲むのが一番だ。

なので、正確には学生寮の壁の落書きが頭に浮かぶと言ったほうがよい。

こんなどうでもいいようなことや、前回投稿した竜峰山と南十字星の関係を反芻してみたりしながら、登る苦しさを紛らわしていると、五合目に到着した。

前回、五合目に行ったときは桜の咲き始めだったが、今回はすっかり眩しい新緑に変わっていた。

ああ、何と、すがすがしい緑なのだろう。
と思いながら、脳みそに酸素を送り込んでいると、竜峰山、竜ヶ峰と南十字座の様子が何やら意味ありげに思えてくる。
左右対称に近い形の竜峰山、竜ヶ峰の山塊のほぼど真ん中に直立する十字形は、出来過ぎた配置に感じる。

あっ、以前、山鹿の不動岩と雁回山と竜ヶ峰が一直線に並ぶことを投稿したことがあったが、その配置に、南十字座も加わるんだ、きっと・・・。

<つづく>