自転車徘徊紀行 第3話 犬と走る

2022年8月8日

今でも田舎へいくと、放し飼いにされている犬に出くわすことがある。
熊本県五木村の川沿いのなだらかな下りをのんびり走っていると、突然、民家から飛び出した犬が、ものすごい剣幕で吠え掛かってきた。
慌てて逃げるが、振り切れない。
幸いそれほど大きな犬でもないので、威嚇しようと走りながら蹴る真似をした。
すると、犬はますます逆上して、足首にぱくりと噛み付いた。
靴下に穴があき、血が少し出ている。
腹が立った私は自転車を降り、吠え続ける犬をにらみながら、犬が飛び出してきた家まで戻った。
やがて飼い主が現れた。
見ると、いわゆる「鄙にはめずらしい」奇麗な人である。
当時、独身の私は「狂犬病の予防注射はしとるですか? しとる? そんならよかです。
たいしたこたなかですけん」などと、情けないことにあっさり引き返してしまった。
一所懸命誤っていたし、まあいいか。

このようなとき、イタリアのレーサーたちは、すかさずフレームポンプをはずして、犬の鼻づら
を思いっきり叩くという。これを走りながらやるのもなかなか技術がいりそうだ。

四万十川の下流で相棒が数匹の犬に取り囲まれた。
動物嫌いの彼は、すぐさま加速し、必死で逃げた。
犬達はしばらく追いかけるが、縄張りの外に出たのか深追いはしない。
その様子を私は後ろで見ていたが、五木村での教訓から、へたに逃げたり脅したりするのはよろしくないと判断した。
そして、まるで無関心を装いつつ犬達の横を通り過ぎる。
犬達は、じっと見ているだけで何もすることはなかった。

また、同じ相棒と能登半島を走った時のことである。
何やら、タッタ、タッタという音が後ろから聞こえてくる。
見ると柴犬が、凄い速さで追いかけてくる。
相棒に「犬が来たぞ」と伝えると、彼は例によって、ダッシュをかけた。
犬はなぜか私を無視して追い抜かし、相棒を追っていく。
火事場のくそ力でスプリント選手並みの速度?で逃げる相棒であるが、犬はすぐに相棒をとらえた。
もうだめだと思った瞬間、犬は急に右折し大きな屋敷の中に消えていった。
結局犬は、相棒を追いかけていたのではなく、急用を思い出しただけだったのだろう。

犬に遭遇した時の対応の仕方としては、

1.まず、無視する。
2.それで、襲ってきそうになったら親しげに振る舞う。
3.それでもだめなら、必死で逃げる。
3.追いつかれたら、フレームポンプで戦う。

を念頭に置いている。その他、良い方法をご存知の方教えて下さい。

※昭和から平成のはじめころ、勤務時間に上司の目を盗み、fjニュースグループに投稿した記事を一部追加修正したものです。