自転車徘徊紀行 第14話 秘境が呼んでいる~津軽~
五能線沿いを北上し竜飛岬に至る旅をした20年以上前の話です。
晩秋のJR五能線沿いの道を走りながら感じたのは、当時、私の住んでいた西日本に比べると想像以上に日の傾くのが早いということと、すぐそこまできている冬の気配だ。
厳しい季節風や雪が吹き付けるのだろう、海岸沿いの赤茶けた草原状の斜面に、妙に寂寥感をおぼえる。
ブナの原生林で名高い白神山地が間近に迫り、変化に富んだ海岸線は、電車の車窓の風景が美しいことで有名だが、自転車で走っても、すばらしい景観が楽しめる。
少し内陸に入ったところにある十二湖で、やや盛りを過ぎたものの美しい紅葉に見とれていると、観光で訪れたと思しき老夫婦に話し掛けられた。
東北弁がわかりづらかったが、おそらく、「この紅葉を美しいと思うのか? 十和田湖はこんなもんじゃない。あんたも行ってみなさい」といった意味のことを言ったのだと思う。
しかし、宝石を散りばめたようだと表現される池が点在する十二湖周辺の紅葉はすばらしく、特に、青池は恐ろしいほど神秘的なブルーで、木々の色彩と鮮やかな対比を見せている。
秘湖探索は大変満足行くものだった。
岩木山が夕日に染まる頃、鰺ヶ沢にたどり着いた。一階がごく普通の銭湯で、二階が客室という不思議な宿に泊まり(最近ネットで調べても、それらしい宿は見つからなかった)、宿の人に勧められたすぐ近くのホテルの温泉を利用する。
このホテルと宿泊した宿の経営者は同じようだ。
この温泉は海底から引いているそうで、完全な塩水だった。
効能書きを見るのを忘れたが、身体の余分な水分が抜けて引き締まったように感じたのは気のせいか。
翌日は、津軽半島を北上し、竜飛崎を目指した。
車力村までは、平坦で直線的な道路であったと記憶している。
ただ、天候は下り坂であり、曇天の中、地の果てに向かっているような、やや暗い気分になってきた。
かつて繁栄を誇った港町が大津波で跡形も無く消え去ったという伝説の十三湖に着いた時、荒涼と広がる湖の水面にポツリ、ポツリと雨が落ちてきた。
冷たい雨の竜泊ライン(小泊~竜飛崎)の登りは足にこたえ、たどり着いた竜飛岬から、北海道は霧と雨に阻まれ全く見えない。
鉛色の津軽海峡に浮かぶ小さな漁船が寂しげで、頭の中はすっかり演歌モードとなる中、同郷の石川さゆりの「津軽海峡冬景色」が流れる歌謡碑があった。
心の中で「フフッ」と笑うしかなかったが、ボタンを押すと自分しかいない寒々とした空間に歌が流れる。
そして、こんな悪天の中、まさに引き返すしかない行き止まりの地に、どうして自分はいるのだろうか。
言いようのない孤独感が増してくるのであった。
冷え切った身体を温めるべく、竜飛岬温泉(ホテル竜飛)に飛び込み、誰もいないだだっ広い浴槽に入った。
そして、青函トンネルの工事を舞台にした映画に高倉健さんの出ているものがあったなあとぼんやり考えた。
健さんもロケの疲れを癒すために、この温泉に入ったのだろうか?。
のんびりしたところで、外に出ると雨足が強まっており、急に現実に引き戻される。
慌てて先を急いだが、津軽半島最果ての駅、三厩の駅舎に飛び込んだときには、あたりはすっかり暗くなっていたのでした。
※昭和から平成のはじめころ、勤務時間に上司の目を盗み、fjニュースグループに投稿した記事を追加修正したものです。
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